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レポート | 観る、やってみる、問いつづける。映像のフィールドワーク展 | 世田谷文化生活情報センター 生活工房

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観る、やってみる、問いつづける。
映像のフィールドワーク展

20世紀の映像百科事典をひらく

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自分の手で生きていくための技を取り戻すワークショップも

一昨年、映像を観ながらひもをつくるワークショップをこの展覧会のプレイベントとして行ったんですが、その時に身近にあって集められるひも、もしくはひもの材料、ひもと思われるものを集めたものです。ひもはすごく分かりやすいし、参加者がすごく熱を帯びるんですよ。


映像のフィールドワーク・ラボ vol.1
「ひもをうむ」

会期: 2017年07月01日(土)、 2017年07月15日(土)
会場: ワークショップA(4F) / ワークショップB(4F)
https://www.setagaya-ldc.net/program/374/

この壁に「ひも部」って書いてありますね。こういうのが結成されてしまうぐらい興味を引く。手仕事としての面白さもあり、文化の中にひもという現象から生まれたものもたくさんあります。そこにはきっと何か秘密があるんですね。二つのものがより合わさって強くなるということなのか、不思議な要素をいろいろな民族が文化の中に持っていて、縄文なんかもそうですね。
縄目もなんでつけたんだろうとか、ひもに関する家紋がいっぱいあったりだとか。そういうのをみんなで自由研究して楽しんでいるのが、この壁にあらわれています。

一般的なモノづくりのワークショップというと「バッグづくり」とか、「コースターづくり」とか、普段もすぐ使えるモノをイメージされると思いますが、その原点となるものをつくることができれば、なんにでも応用できると思うんです。ひもはある意味全ての原点かも。

自分の手で、生きていくための技を取り戻したい。ひもは天然素材に限らず、スーパーの袋なんかでもできます。その場であるものでつくることができる。

くるくる棒を回すことで簡単にひもがつくれる方法もありまして、私たちが始めの取っ掛かりはお伝えします。すると一般の来場者の方がちょっと興味を示した別の来場者に「私が教えるからやりましょう」と、参加者が参加者に教えるという構造が生まれ、嬉しくなりました。

こちらは、映像作家の野口靖さんとつくったインスタレーション《Diverse and Universal Camera》です。
ECフィルムの映像をキーワードでタグ付けして選ばれたシーンが、大画面にランダムな順番で並んで展開します。ここまではアナログな世界の展示だったんですが、ここは現代のデジタル技術と融合したイメージです。このインスタレーションと、会場中に吊り下げられた3,000の映像タイトルを眺めていると、野口さんがこの作品につけたタイトルそのままに、映像の百科事典であるこのフィルム・アーカイブの、多様性と普遍性みたいなものが見えてくる気がします。

ただ、このデジタルの場を実現するまでにはものすごく地道なアナログ作業があって、映像を観ながら、何分何秒から何分何秒まで「椅子」が出ているとかいうのを一つずつ書いていったんですよ。それがとても大変でして。300の映像を観ながら、「笑う」とか「回す」とかもチェックする。

他に「おしゃれ」「この技すごい!」なんていう主観的なものも含め、40個のキーワードでタグ付けをしました。

ECフィルムがピースでできていて、組み合わせ次第でいろいろなことができるということを、現代の技術を使ってシャッフルして発表するようなものです。アイウエオ順になっているということは、ランダムということです。例えばアイスの次にアイヌが来るかもしれないということですよね。

いろいろな国の人たちとともに宝を共有する取り組み

これまでさまざまなテーマでEC上映会を行ってきました。映画館で著名なゲストの解説付きで上映したり、庭園美術館のマスク展で仮面の映像を使っていただいたり、カゴのお店でカゴ編みの映像を使ったワークショップを開いたりもしました。今後は、映像の借り手側に使い方を自由に考えてもらって、自主企画として展開できたらと思っています。

地方で上映していて実感することは、私たちが映像で知り得ないものが、その地に存在しているということです。それは、モノであったり、人であったり、総じて「営み」であったりします。これからもっと力を入れていきたいと思っているのが映像を取材地の人と共有する試み。今回3階の展示でも紹介したスーダンのヌバの人びととのプロジェクトがその例ですが、内戦によってスーダンはさまざまなものが破壊され、多くが難民になっています。でも、ECフィルムにはかつての暮らしの映像がいっぱい残っているんです。現地の難民キャンプに村橋勲さんという日本人の人類学者が行って、かつての映像を現在の現地の若者や長老に観てもらう「映像の里帰りプロジェクト」ということをやったんですね。他の地域で同じことをするのはなかなか難しいですが、いろいろな国の人たちとその土地の映像を観て、この宝を共有するという行為が必要だと思っているんです。勝手にどこかの映像を撮ってきて、撮ってきたものを素晴らしいと言って観ているだけだと一方通行でしかないですよね。

映像が撮られてから50年以上経っている現代で、いろいろな人が映像を観て、さらに50年先の人にも届けていけるような仕組みをつくらないといけないと思うんです。

そこで今回やってみているのが、先ほどのフィールドノートのメモを、映像ごとの「伝言フォルダ」に入れ、未来に届ける取り組みです。みんなで共有することによって、私もそんな風に思ったとか、こういう見方もあったのかとか、いろいろな人たちの考えを時間を超えて分かち合うことができます。

昨日のトークイベントで、日本のECフィルムを運営されてきた岡田一男さんがECフィルムの当初のコンセプトをお話しされていました。それは再現可能であるとか、比較できるものであるとか、動物と人間がある種同一線上に捉えられる、といったことなのですが、それが初めてこの展覧会で実現したのではないか、ということでした。しかも遠く離れた現代の日本で、映像インスタレーションという形で展開されることによって、実証できたのです。

歴史の中で忘れてはいけないこともあります。人間の映っているものをどのように取り扱っていくか、最大限に尊重しながら考えていくべきものです。3週間という限られた会期の展覧会でしたが、その中の多様な営みが、来場者に次々と伝わっていくような、そういう展示になった実感があります。ここで生まれた次なるアイディアをどんどん積み上げて、未来につなげていきたいと思っています。

カワルン
今の自分たちが毎日やっていることも、50年後の人たちはもうやらなくなっているかも。
クラシー
普段何気なく動画を撮っているけど、何を未来に残していきたいか考えることも大事だね!

Supported By

写真: 松田洋一、中川周
ライティング: サスティナ・ジャパン株式会社
クラシー&カワルン イラストレーション: にしぼりみほこ