1952年、世界中の生命の営みを記録した「映像の百科事典」を作ることを目的に、ドイツである壮大なプロジェクトが始まりました。その名は、「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」(以下「ECフィルム」)。以降30年近い歳月をかけて、あまたの研究者やカメラマンが世界各地に赴き、そこに生きる人々の暮らしや儀礼、動植物の生命活動を映像に収めました。
映像のなかには、もうすでに失われてしまった無数の営みが記録されています。身のまわりにある自然の素材から生活に必要なものすべてを作り出すことは、つい最近まで世界中で当たり前に行われていました。博物学者・荒俣宏氏をして「人類が電気なしでも大丈夫だった頃の最後の勇姿がここにある」と言わしめた映像群に、私たちは何を感じ、学ぶことができるのでしょう。
「映像のフィールドワーク・ラボ」と題した本企画は、映像に記録された世界をフィールドワークし、ラボ(実験)するワークショップ・シリーズ(全3回を予定)です。ECフィルムの映像のなかに息づいている人々の生活や動物たちの動作をなぞり、たどることで、生命の根源的な営みを皆でともに探ります。
第1回のテーマは、「ひもをうむ」。暮らしのあらゆる場面で「ひも」は欠かせない存在です。さまざまな繊維から「ひも」をうみだす世界各地の映像を観ながら、その手法を試行錯誤し、実験します。2日間のワークショップはもちろん、1日ごとの上映会だけのご参加も大歓迎です。
企画進行:ECフィルム活用チーム〈下中菜穂(造形作家・もんきり研究家)、丹羽朋子(文化人類学者)〉
画像:左より「竜舌蘭繊維の糸づくりと紐づくり」、「ココヤシ繊維の紐づくり」、「穀物を束ねる縄づくり」、「綿紡ぎ」
【スケジュール】*映像は実際の上映順とは異なる場合があります
1日目 7月1日(土)「ひもをうむ」
11:00-12:00 ECフィルムの上映
「竜舌蘭繊維の糸づくりと紐づくり」(コロンビア シェラ・ネヴァダ・デ・サンタ・マルタ/アルファコ族/1969年撮影/8分30秒)
「ココヤシ繊維の紐づくり」(エリス諸島 ニュータオ島/ポリネシア人/1960年撮影/10分30秒)
「ヤクの毛のほぐしと紡ぎ」(アフガニスタン バダクシャン/タジク族/1963年撮影/5分)
「穀物を束ねる縄作り」(中央ヨーロッパ シュレースヴィッヒ/1962年撮影/7分)
「屋根葺き用の縄づくり」(中央ヨーロッパ シュレースヴィッヒ/1962年撮影/4分)
「亜麻の収穫と加工(こく、たたく、梳く、紡ぐ)」(中央ヨーロッパ 西モラビア/1970年撮影/10分30秒)
「木製の小道具での綱づくり」(中央ヨーロッパ ホルシュタイン/1966年撮影/9分)
12:00-13:00 昼食
13:00-16:00 ラボ①
映像に出てくる素材や身近な材料を使って繊維を取りだし、ひもを作る実験をします。
2日目 7月15日(土)「ひもからなわへ」
13:00-14:00
「綱づくり」(西スーダン ニジェール川中流域/ドゴン族/1966年撮影/10分)
「紐づくりと網づくり」(東ペルー モンターニャ/マチゲンガ族/1968年撮影/15分30秒)
「綿紡ぎ」(タイ チェン・ライ県/アカ族/1965年撮影/4分30秒)
「羽毛の飾り紐づくり」(タイ チェン・ライ県/アカ族/1965年撮影/10分30秒)
「ココヤシ繊維の綱づくり」(ギルバート諸島 ノヌーティ環礁/ミクロネシア人/1963年撮影/8分)
「麻紐づくり」(中央ヨーロッパ ホルシュタイン/1966年撮影/14分30秒)
14:00-14:15 休憩
14:15-17:00 ラボ②
映像に登場する道具を再現し、持ち寄ったひもをよりあわせて、縄を作りましょう。
*参考上映:「サンワー村のひもづくり」(中国/2013年/撮影:丹羽朋子)
【ワークショップのご参加】
対象:小学生以上で上記2日間とも参加可能な方
定員:20名(抽選) 参加費:2,500円(1日目のみ「ひも弁当」付)
申込:6月16日までに、このページ下部の「プログラムに申し込む」より専用フォームにて
【上映会のみのご参加】
各日それぞれ 定員:50名(申込不要 当日先着順) 参加費:500円
当日直接会場へお越しください。開場時間:1日(土)は10時45分、15日(土)は12時45分頃を予定
〈エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ〉
1952年にドイツ・国立科学映画研究所で始まった、世界中の知の記録の集積をめざした映像による百科事典。演出や解説、BGMを徹底的に避け、比較を可能にする体系的な映像を目指して作られたフィルムは、20世紀の民族誌映像のひとつの型を作ったともいわれる。制作されたECフィルムは各国機関に渡り、日本でも1970年より下中記念財団によって、アジアで唯一のフルセットの映像が管理・運用されている。現在、新しい活用法を模索中。 http://ecfilm.net/
〈ECフィルム活用チーム〉
2012年よりECの上映会を東中野のポレポレ坐カフェにて開催。長い間利用されていなかった16㎜フィルム群をゲストと観客がいっしょに「映像のフィールドワーク」をするように観る活動を始める。2016年にはタイトルの検索のできるサイトを立ち上げ、利用し易くするとともに、ポレポレ東中野(映画館)での7夜連続上映、東京大学インターメディアテクなどでの上映会も。2017年には小金井の小学校の図工の授業での映像を利用したものづくりの試みをするなど、アーカイブ映像の新しい利用方法の試行錯誤を続ける。作家の荒俣宏氏を応援団長にゆるやかに活動中。
〈下中菜穂(しもなか・なぼ)〉
造形作家。もんきり研究家。東京造形大学講師。江戸時代の『紋きり遊び』を通して「かたち」に込められた祖先の暮しぶりや精神を紹介。「文様を暮らしの中で楽しむ」文化や手仕事を現代に蘇らせるべく、出版やワークショップ、展覧会などを展開。今も暮らしに生きている切り紙を訪ねて中国の農村、奥三河、南三陸などへフィールドワーク。著書に『紋切り型』のシリーズ(エクスプランテ)、『こども文様ずかん』(平凡社)、『切り紙もんきり遊び かたちを贈る』(宝島社)、『キリガミ切り抜きもんきり遊び』(河出書房新社)など。http://www.xpl.jp/
〈丹羽朋子(にわ・ともこ)〉
インテリアブランドIDEEに勤務後、北京留学を経て文化人類学の道へ。アートになる手前の、風土に根ざした‘かたち’に興味をもち、中国黄土高原のヤオトン住居に寄宿しながら、農家の女性の切り紙等のフォークアートを調査。現地の人々と協働した映像や展示制作の手法についても研究している。著書に『窓花/中国の切り紙ー黄土高原暮らしの造形』(下中菜穂との共著、エクスプランテ)、共編著に『フィールドノート古今東西』(古今書院)、共編訳に『魯迅の言葉』(平凡社)ほか。人間文化研究機構勤務、NPO法人FENICS理事。http://www.fenics.jpn.org/
*お弁当〈ピリカタント 西野優(にしの・ゆう)〉
北海道十勝で、農家の息子ともやし屋の娘のあいだに生まれ育つ。半人前の編集者から旅人となり、古書店を営んだのち料理人に。ハーブとスパイスと季節の食材で、古今東西織り交ぜた無国籍な料理、人と土地を結ぶ料理、旅の香る食卓を描くように料理します。https://www.facebook.com/pirkatanto