日本の生活のなかで息づく「赤」。赤という色は、古代より祝事や魔除けの意味を持ち、日本独自の伝統文化として美しさと豊かさを受け継いできました。原材料や染織から「赤」に込められた願いを、衣服造形家の眞田岳彦氏と共に紐解いた展覧会『赤をめぐる旅』(2017年4月)に続き、2回目となる今回は、「赤と祝い」の関係を、水引を通して考えます。
水引は、主に冠婚葬祭の場で使用されていますが、特別な結び方を施すことで祝いの心をあらわしてきたのが、赤い水引です。時を経て、より豪華な装飾が求められるようになり、赤い水引は金糸銀糸の水引へと展開してゆきました。
本展では、赤い水引にかかわる土地をめぐり、日本人の「祝う心」や「願い」を展示物と眞田氏の作品と共に紹介してゆきます。
展示内容1
赤をめぐる旅をもとに、眞田岳彦が衣服造形作品をつくり展示
日本の繊維を作品の素材にしてきた私は、これまで、苧麻(からむし).木綿.羊毛.絹など伝統繊維に関わる土地を訪ねてきたが、今回は「水引の赤」を求めて、京都、金沢、長野、東京を歩いた。
日本人は平安の昔から赤と白の糸を用い、他者への贈り物や祝いの品を大切に結び、喜びの心を伝えてきた。紙を丁寧に縒りつくられる水引糸の結びには、喜びを分かち合い、心豊かな生活を得ようとした日本人の姿を見ることができる。(眞田岳彦)
(左)福井 越前 大瀧神社・岡太神社 創建1500年の紙の神を祀る (中)長野 飯田市に建つ元結文七の碑 (右)三州街道の幾重にも重なる山並み風景
展示内容2
水引の産地で出会った祝いを継ぐ人、物、事/祝いの水引結び/水引工芸/風土と歴史
東京 日本橋
「榛原(はいばら)」展示品:結納品、祝儀袋下絵千代紙図案、他
創業200年を超える和紙の老舗。江戸期より季節の花々や、縁起の良い文様をちりばめた榛原千代紙を制作。
これを活かした和紙小物の華やかさは、江戸の粋を伝えている。
長野 飯田
「水引屋 大橋丹治」展示品:文七元結の品、他
創業140年。江戸時代には相撲や吉原などで髪を結う際に使われた「文七元結」で人気を博し、
この確かな手仕事から現代に生かす水引を伝えている。
長野 飯田
「神明堂」展示品:赤白生水引、他
創業115年。自社工場で細幅紙に撚りをかけて、1本1本水引糸を作り出す。
素材の水引糸から金封・正月飾りなどの製品まで一貫して行っている。
京都 下京区
「大嶋雁金屋」展示品:京水引を使った鶴亀、他
創業180年。水引発祥の京都で儀式用品の店として開店。
古い文献に描かれた古来の祝いの形を学び、典雅な京水引を現代に伝えている。
石川 金沢
「加賀水引 津田水引折型」展示品:水引折型包の品、他
創業100年。かつて平面的だった水引の結びや和紙の折型を立体的に造形。
用途目的に応じて結ぶ水引と、吟味されて書かれる表書きは加賀水引の伝統を豊かに伝えている。
福井 越前
「池田水引」展示品:松の水引、他
1500年続く越前和紙の里で「生きた水引」を目指す。
豪華な松竹梅や鶴亀などの水引飾りは、和紙を生みだしてきた越前今立の山と川の力を伝える。
眞田岳彦(さなだ・たけひこ)
SANADA Studio inc.主宰 女子美術大学特任教授 東北芸術工科大学客員教授
日本の衣服・繊維研究と造形活動を行う。ISSEY MIYAKE INC.にて衣服を学び、92年渡英。彫刻家RICHARD DEACONの助手を経て95年に帰国しSANADA Studio 設立。国立民族学博物館外来研究員などを経験し、国内外の美術館・ギャラリーで衣服/繊維作品発表、染織・地域プロジェクト、企業のアート&デザインディレクションなど行う。著作「Ifuku 衣服」(六耀舎)、「考える衣服」(スタイルノート)、他