山々に踊る、家族のためにつくられた美しき衣装
世界の山岳地に住む人々の暮らしを紹介する「クライム・エブリ・マウンテン」シリーズの第1弾として、中国西南部の貴州省に多く暮らしているミャオ族(苗族)を取り上げます。
左:台江・梅影村の歓迎式典(撮影:佐藤導直) 右:三都(サンドゥ)のピカピカ布服。卵白を塗りつやと張りを持たせた生地に、渦巻きの染文が特徴的。(撮影:西岡潔[『ミャオ族の刺繍とデザイン』/大福書林より])
「天に三日の晴れ間なく、地に三里の平野なし」といわれるこの地域では、山また山が連なり、南からの湿った空気が山にぶつかって毎日のように雲が発生します。この山々の斜面を切りひらいて棚田をつくり、稲作を中心として暮らしてきたミャオ族は、美しい民族衣装で知られる人々です。「百苗」とのことばにみられるように、衣装は地域によって異なります。
段々畑の稲刈り(撮影:佐藤雅彦)
農作業の合間を縫って糸を紡ぎ、織り、染め、さらに繊細な刺繍を施す――ミャオの家庭では母から娘へと、その技術が伝え継がれてきました。子どもを背負うための「背帯」はとても大切にされている嫁入り道具のひとつで、「布目から魔が入る」という言い伝えもあり、特に念入りな刺繍が施されます。モチーフのひとつひとつにも意味があり、蝶はミャオ族の始祖、龍は雨と風を呼ぶ五穀豊穣の象徴、唐辛子の花は子だくさん…。文字を持たなかったミャオ族が、歌や口承によって伝え継いできた信仰や精神性、民族としての誇りが、まるで物語のように衣装にも縫い込められているのです。
左:革一(グーイー)地方の背帯。堆繍(ドイシュウ)という極小のシルクパーツを1ミリ単位でずらして重ね、立体的に模様を描いてゆく技法で、鳥や魚、蝶などが描かれている(撮影:西岡潔[『ミャオ族の刺繍とデザイン』/大福書林より]) 右:祭りの準備。銀の飾りを付けてもらっている少女(撮影:佐藤雅彦)
11月中旬、ミャオ族の村々では、穀物の刈り入れが終わった村から順に正月を迎えます(苗年節)。ミャオ族にとっての新たな年が始まるこの時期に、その刺繍と1年間の暮らしを紹介する展覧会を開催します。
映像を除く展示資料のすべては、愛知県常滑市にある苗族刺繍博物館の収蔵品です。私設のこの博物館は、1000点を超える貴重な苗族の資料を有して公開しているだけでなく、学校に通えない少女たちが無償で刺繍を学べる禾苗刺繍学校を貴州省台江県に2001年に設立し、支援を続けています。
本展では、「小さな祭りは毎日ある」とされるほど伝統的祭礼の多いミャオ族の1年間を辿りながら、その中で大切に伝えつがれてきた民族衣装約60点と、映像資料の展示や関連イベントをとおして、ミャオ族の刺繍と暮らしに迫ります。
左:革一(グーイー)の背帯。祠に祀られる人、踊る村人たち、闘牛のシーンなどが平繍(ピンシュウ)で描かれている 右:丹寨(ダンジャイ)の、祭りの際に用いられる特別な正装「百鳥衣」。大胆に龍が舞い、裾には鳥の羽が揺れる(左右とも、撮影:西岡潔[『ミャオ族の刺繍とデザイン』/大福書林より])
*展覧会会場受付では、ミャオ族のアンティーク刺繍や、禾苗刺繍学校の少女たちによる刺繍作品、書籍『ミャオ族の刺繍とデザイン』などを販売します。