明治時代、小説家の徳冨蘆花が「農的生活」を求めて世田谷に移り住んだように、戦前までの世田谷は田畑が広がり、多くの人々が農業を生業としていました。近代化・都市化が進み住宅街となった世田谷ですが、今も練馬区に次ぐ広さの農地があります。そしてその畑には数多のいきものが生息し、地域の環境を支えています。
世田谷区等々力に400年続く大平農園は、昭和20年代に当時珍しいハウス栽培をいち早く導入するなど、近代農業を先駆する存在でした。しかし、それゆえに起きた農薬の健康被害、11代目大平博四氏による農薬・化学肥料を使わない農法への大転換、生産緑地としての農地存続など、その歴史には、近代の都市農業のたどってきた道が記されています。
本展では、大平農園や地域の農業の歴史をパネル等で展示し、畑の土壌の微生物・野菜・動物・人間の円環を、楽しいイラストから学びます。また大平農園と志をともにする他県の農家、それを支持する消費者からなる「若葉会」から、つながりの中に育まれた、旬の野菜を長くおいしく楽しむ知恵も紹介します。
土の中の出来事と今日のあなたの食卓、それが地続きであることを知るための展覧会です。
10代目の大平信彌氏 所蔵:世田谷区郷土資料館
いまは住宅街となった一角に畑がある
畑の小松菜