おかしくも、切ない、家族の記憶と記録
エッセイストのしまおまほさん。父方の祖父母はともに作家の島尾敏雄、島尾ミホ。そして両親はともに写真家の島尾伸三、潮田登久子。そんな家族の存在は、自身の日常を題材にしたエッセイにもしばしば登場し、ときにおかしく、ときに切ないエピソードとともに綴られています。しまおさんにとって家族は、最も身近で、かつ大切なテーマといえるでしょう。2015年に出産した息子と母子で暮らし、古希を過ぎた両親の姿とすくすく育つ子どもの姿を見守るしまおさんは、娘として母として、いま、家族の新たな風景を見つめています。
社会やライフスタイルの変化にともない、多様な家族のかたちがある現在。本展は、しまおさんとともに改めて「家族」について考える展覧会です。しまおさんが綴った家族をめぐるエッセイ、両親が撮影した家族写真をはじめ家族にまつわる品々を紹介します。
左写真:島尾伸三撮影 中央写真:1982年、祖父・島尾敏雄、叔母・島尾マヤとしまおまほ 右写真:父・島尾伸三としまおまほ
家族の景色 しまおまほ
今から約40年前、豪徳寺にある洋館の一部屋でわたしたち家族の暮らしは始まりました。昼間は隣の敷地に住む2つ年上のカヨちゃんとおままごと、午後になれば同じ洋館で暮らす小学生のお兄ちゃんたちが学校から帰ってきて、みんなで追いかけっこ。陽が落ちたら部屋に戻って父、母と3人で静かな夜を過ごしました。洋館の大きな窓からは豪徳寺の森とお墓、そしてポツンポツンと夜空に光る星が見えていました。
きっとこの生活がずっと続くんだろうと、思っていた幼い頃。
その後近所の母の実家へ越し、祖父母との5人暮らし、そして祖父、祖母を自宅で看取ります。また3人暮らしになって……。息子が生まれて。
家族の日常は、少しずつカタチを変えていきました。
離れて暮らしていた父方の祖父母、叔母との関係も。年齢を重ねるごとに気づく、彼らへの想い。彼らの身体が消えてなくなった今も、その気持ちが深まっていく不思議。
鳥が種を運び、落とした場所に芽がでるように。いろんな偶然と必然が折り重なって家族はそこにいるのかもしれません。
豪徳寺のお寺とその上に広がる夜空。その側で暮らし、過ぎて行く年月。そんなわたしたちの暮らしの意味を、考えはじめているところです。
しまおまほ プロフィール
エッセイスト・漫画家。1978年生まれ。多摩美術大学美術学部二部芸術学科卒業。1997年に高校生のときに描いた漫画『女子高生ゴリコ』でデビュー。雑誌や文芸誌でエッセイや小説を発表するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍。2015年に第一子を出産。著書に『まほちゃんの家』『マイ・リトル・世田谷』『ガールフレンド』などがある。
https://www.setagaya-ldc.net/relationship/30/
※フライヤーのプロフィールには「多摩美術大学造形表現学部卒業」とありますが、正しくは「多摩美術大学美術学部二部芸術学科卒業」です。