冷蔵庫を開けたその中に「秘密」はない。「秘密」は冷蔵庫の置かれた空間にぶちまけられているのだ。それが置かれた空間いっぱいに「ウチの内臓」がさらけ出されている。(略)
冷蔵庫の中と外の空間がそろって「モノが少ない」家もある。「モノでギュウギュウ」の家もある。もしかしたら、その空間と空間の主の内面も照応しているのかも知れない。そんなことを思いながら、写真の中を覗き込む。おもしろい。医者の薬の袋が入っていたり、ドリンク剤やスッポン粉末が入っていたり、冷蔵庫中ビールだらけだったり……。冷蔵庫の「ウチとソト」は実に、その「うち」の生活のカタチや経済状況を反映し、かつその持ち主の性格や心理状態まで表現している。だがそうやっておもしろがりながら、ふと気がつく。覗き込んでいるのが、単なる他人の生活なのではなく、自分のそれを含めた「われわれの生活」であることに。(略)
動物学者は、捕らえた動物の胃袋の中を調べて、その動物の生活実態を知ったりするが、潮田登久子は、まさにそのような感じで「われわれの内臓」を標本化し、大量生産大量消費文明が終末を迎えかけているこの20世紀末の日本に生きるわれわれの生活の実態を、見事に提示して見せたのだ。
佐野山寛太(さのやま・かんた/評論家)
写真集「冷蔵庫/ICE BOX」‘ウチのナカミ’より
潮田登久子(うしおだ・とくこ)プロフィール
1940年 東京に生まれる
1963年 桑沢デザイン研究所卒業
1966~78年 桑沢デザイン研究所および東京造形大学の講師を務める
1975年頃よりフリーランスの写真家として活動を始める
主な個展 Solo Exhibition
1976年 「微笑みの手錠」新宿ニコンサロン(東京)
1987年 「冷蔵庫/ICE BOX」東京デザインセンター(東京)
1992年 「冷蔵庫/ICE BOX」ギャラリーさくら組(東京)
1994年 「帽子」ギャラリーMOLE(東京)
1998年 「冷蔵庫/ICE BOX」三菱地所アルティアム(福岡) 他
主なグループ展 Group Exhibition
1982年 「CHINA LIFE REPORT」(島尾伸三との二人展)ポラロイドギャラリー(東京)
1983年 「CHINA LIFE REPORT」(島尾伸三との二人展)パルコギャラリー(東京)
1984年 「人民生活物資遊覧」(島尾伸三との二人展)ピクチャー・フォト・スペース(大阪)
1988年 「15 contemporary photographic exhibition」筑波大学別館ギャラリー(茨城)
1989年 「六・非・表現主義」FROG(東京)
1993年 「布の彫刻・光のデッサン」(香山まり子との二人展)銀座牧神画廊(東京)
1995年 「写真都市TOKYO」東京都写真美術館(東京)
1998年 「女性写真家のまなざし1945~1997」東京都写真美術館(東京)
1998年 「現代中国博物学」(スライドショー;島尾伸三との二人展)東京都写真美術館(東京) 他
写真集・著作物 Book of Photograph・Book
『CHINESE PEOPLE』私家版
『冷蔵庫/ICE BOX』光村出版 BEE BOOKS
『中華人民生活百貨遊覧』(島尾伸三との共著)新潮社
『擬裸儒(コラージュ)的・中華天地』(島尾伸三との共著)三交社
『中国のかわいいおもちゃ』(島尾伸三との共著)平凡社 他