『ベルリンうわの空』香山哲(イースト・プレス)
『ベルリンうわの空』『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』『ベルリンうわの空 ランゲシュランゲ』の全3巻 撮影:生活工房
ひらめきが訪れるのは、机に向かって腕組みしている時よりも、空を眺めていたり、お風呂で頭を洗っているような時が多い気がします。つまり何も考えていない時。うわの空でいる時に初めて、自分が何を感じているのか気づくような、心の余裕が生まれるのではないでしょうか。
『ベルリンうわの空』は作者・香山哲さんがドイツのベルリンに移住し、あまり何もしない生活を描いた漫画です。毎日を平凡に暮らすことで、ベルリンの特徴が見えてきます。いろんな存在が共存するから「大多数の普通とその他」っていう感じがあまりしないこと。街全体に余裕や優しさがあること。「この街では失敗しても立ち直れる」という安心感があるから、大胆な挑戦や自由な遊びに自分を投げ込むことができる。誰かの気まぐれや自由意志で発生したよくわからないものが多く、そういうものに触れる毎日は、気持ちを自由にしてくれる。
私が始めたお店の名前「twililight」は、twilightに余計なliがついています。twilightの間違い?って言われることも多いですが、それでいい。余計なものや無駄なものが切り捨てられず、間違いや失敗ができる、ベルリンのような自由な場所でありたいと考えているから。
何よりこの漫画に惹かれるのは、作者・香山晢さんの在り方です。こういうものだと決めつけることを香山さんはしません。社会も人間も常に変わり続ける不安定なものであることを受け入れ、不安定だから生まれる人間同士のみずみずしい関わりを描きます。都合のいいイメージで縫い合わせた物語に陥らず、うわの空で、平凡な毎日の発見を描いたこの漫画を読んで、不安定が当たり前なんだと、肩の力が抜けました。
香山さんの最新作『香山哲のプロジェクト発酵記』(イースト・プレス)では、マイペースに自分の納得いくことに打ち込みたい香山さんの思考法が展開されます。しっかりのんびりして、楽しく構える。励みになります。 撮影:生活工房
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熊谷充紘(くまがい・みつひろ)
愛知県生まれ。2011年3月11日がそれまで勤めていた会社の最終出社日で、翌日からフリーランスに。ignition galleryという屋号で特定の場所を持たずに展示やイベントの企画を全国で行う。2020年の4月〜6月にかけた自粛期間に柴崎友香『宇宙の日』、バリー・ユアグロー/柴田元幸訳『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』を刊行。以降出版活動も行う。2022年3月11日に三軒茶屋で本屋&ギャラリー&カフェ『twililight』をオープン。
*twililightでは、働くことや仕事をテーマにセレクトされた本や「どう?就活 vol. 2」のゲストがおすすめする本などを一部取り扱っています。
セミナー
どう?就活 自分と仕事の出会い方 vol. 2
https://www.setagaya-ldc.net/program/547/
会期:2022年12月3日(土)・4日(日)
ファシリテーター:西村佳哲(働き方研究家)
ゲスト:今井紀明(認定NPO法人D×P理事長)、さこうもみ(社会起業家)、吉倉理紗子・白石宏子・玉置純子・青木佑子(株式会社スティルウォーター)、松山剛己(松山油脂株式会社) *順不同