関口千穂
1977年東京都世田谷区生まれ。セタガヤママの店主・大橋正子の次女。ドライフラワーショップ「hinihini」店主。https://hinihini.jp/
中央のモノクロ写真が母の大橋正子 撮影:平野太呂
セタガヤママ(世田谷区・経堂)にはその時々で流行りの遊びがありました。母・大橋正子は、次々とおもしろそうなことを企画しては人を集めて遊んでいました。
中でも印象深い遊びが「トマソン探し」です。トマソンというのは建物に付随する、何の役にも立たないものを指します。店を閉めた後、参加するお客さんたちが集まってきて、近所をぞろぞろ歩きます。民家の壁についた何処にも出られない扉や、中途半端に作られ放置された階段などを見つけては「あれはいいトマソンだね」などと言いながら鑑賞し、感想を述べ合って帰っていく。それだけなのですが、小学生だった私にとっては妙にわくわくする、刺激的な散歩だったのです。
ほかにもよくやっていたのは「広辞苑遊び」で、遊び方はまず、進行役が広辞苑の中から誰も知らないであろう言葉を一つ選びます。他の人たちはその言葉の意味を想像し、あたかも広辞苑に載っているような調子で紙に書きます。進行役はそれぞれの回答と正解を混ぜてホワイトボードに書き出し、進行役以外は正解だと思うものに投票します。一番多くの票を集めた人が勝ちというわけです。子どもには難しいと思うかもしれませんが、案外私の書いたものが票を集めることもあり、なんともやりがいのある遊びでした。
お互い呼び名しか知らないような大人たちが入れ替わり立ち代わり店に来ては、子どもも一緒くたになっていろんなことをして遊んだのを思い出します。
今思えば、その出入り自由な風通しのよさがセタガヤママらしさだったのでしょう。おかげで私は、唖然とするほどいろんなタイプの大人たちと出会いました。怪しげな大人も肩書の立派そうな大人も、一緒に遊ぶ時間をただ楽しんでいたように思います。
そこで育った私は今でもたまに、げらげら笑い合って一緒に遊んだあのときの大人たちに無性に会いたくなるのです。くだらないことをおもしろがって、無益な時間をたっぷり持っていたあの大人たちに。
セタガヤママのキッチンに立つ小学生の私と母
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展覧会
続・セタガヤママ 小さなメディアの40年
https://www.setagaya-ldc.net/program/552/
会期:2023年1月31日(火)~4月23日(日)
9:00~21:00 祝日をのぞく月曜休み