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来場者とのQ&A
せっかく現役の編集長もいることだし、何か質問のようなことがあれば、ぜひしてみてください。
一番愛着を持っている特集は何ですか?
僕が『relax』の編集長を離れる年だったと思うんですけど、「サンフランシスコ」と「ビート禅」特集が一冊になって、表紙はヤン冨田さんが白地に黒く丸を描いた絵の号が、僕はすごく愛着のある、そして、自分の考えとかやってることに、ちゃんといろんな人が答えをくれてるのにこれまで気づいてなかった、っていう発見がある特集だったなと思っています。
僕はやっぱり現場に出てる時の、先ほど話した「一世一代の旅、その先の絶景へ。」っていう号です。子どもの頃に「南極物語」っていう映画を見て、いつか絶対行きたいって思って、本当に自分の夢をかなえるためだけの特集で(笑)。クルーズ船じゃないと行けないので、船の会社とずっと交渉を続けてて、で、南極へは何年後かにやっと招待してもらえたんですけど、「南極特集」じゃ売れないじゃないですか。その時に初めて、南極を取り上げるには何特集にすればいいんだろうって逆から計算して。おそるおそる編集長に「次の特集は『一生に一度でいいから行きたい旅』っていうのでいきたいんです」って相談して「ああ面白いじゃん」って言ってもらえて実現できたんです。でも南極だけで1冊はできない、僕は世界で一番寒いところに行くから、世界で一番暑いところに行くっていう記事もやろうと思い、「僕は南極に行くんで、君は砂漠に行ってきてください」って、ダナキル砂漠っていうエチオピアとエリトリアの間にある平均気温が50度くらいの砂漠に今の副編集長の中西っていうのに行ってきてもらって出来たんです。編集は好きなことをやるものだっていうことに立ち返ると、あれが一番好きなことをやった特集なんじゃないかなって、そこに愛着を感じてると思います。
特集や企画を考える時に、アイデア出しの段階のルーティーンとか、こういうことやって考えてるっていう、アイデアを出すコツみたいなのがもしあれば教えてほしいと思います。
あれとこれを足したら何ができるか、っていう発想を常に持ってるっていうことかな。たとえば8月に棚の特集をつくったんです。タイトルは「棚は、生きざま」っていうのにして、棚を見ればその人の生活とか蓄積がわかるという特集。それこそ岡本さんの展示がそうですよね。あれってまさに岡本さんの人となりがすごい出てる「棚」じゃないですか。そういうのをインテリア特集、書棚特集とか、整理術とかいうワードでくくるのではなくて、「棚は生きざま」って大きく構えた時に価値が生まれる、それが編集だなって思うんで、アイデア出しについては、いろんな人に会いなさいとかいろんなもの見なさいっていう良くある話になっちゃうんですけど、それだけじゃなくて、その時に「あれとこれをくっつけたらこうなるのか」「この言葉と、あれをくっつけたら違った価値が生まれるのか」というところまで、常に頭の体操、ゲームみたいにしてるっていうのがコツなのかなと思うんですが、いかがでしょうか。
そうなんですよね。言い切らないと特集のタイトルにならないところがあるから、普段見てるものの組み合わせ方っていうか、古い街を歩いてて看板に面白いことが書いてあったとか、そういう引っかかりを、今、新しいものとして提示するには何とくっつけたらいいかということは考えますね。会議のために何かを集めておくような生活はもうしてないので、お答えにはならないかもしれないですけど、普段見てることの面白さを見逃さないようにするってことかなあと思います。
そろそろ『BRUTUS』1000号ということで、お二人それぞれ、1500号まで続くか、それについて何で続くのか続かないかってところも合わせてお聞きできればと思います。
1500号っていうことは年間23冊なので、20年ですよね。続けさせたいですけどね、やっぱり。僕『Hanako』は月2回だったのを月刊化したんですね。月2回発行する体力をキープするより、組織を小さくしてどう収益化していくかを考えてやったんですけど、『BRUTUS』が月刊化すると遊びのある特集ができなくなっちゃうかなとは思っていて。
月2回だと売れなくても2週間待てば次の号が出るんでそれまでは下を向いてれば耐えられるんですけど(笑)、月刊はだいたい5日間くらいで決まるんで、売れなかったらそこから20日間くらい生きた心地がしなかったりする。月2回刊が続くか続かないかというより「続かせたい」っていう気持ちが一番あるので、そのために部数の売れ行きとか、広告売上で一喜一憂しないような強い組織、ブランドづくりをしながら、1日でも長く月2回出していきたいと思います。アナログレコードがいまだにあるように、雑誌の良さとか、雑誌のプロダクトとしての楽しさとかを、若い子たちに伝えていく努力も怠らないでやっていきたいなと思っていますね。
20年後俺いないからあんまり想像できないけど、最近LPばっかり買ってるんですね。で、ある時若い子にLPを買ったって言ったら「岡本さんまだフィジカル持ってるんですね」って言われて、配信のデータで聞いてる子たちにとっては物体としてあるってことを「フィジカル」って言い方をしてるんだってその時教わったんですけど、そのフィジカルであることが楽しいっていう人の数を増やしていかないと、なかなか1500にはしにくいかなと思います。
そうですね。
紙に印刷されてると、その時に読んで終わりっていう風にならないものなんだなあと思うんですよね。2年くらい前から編集に関わる展示なんかをやっていて思うのは、実際にモノとして残ってるものは、それを見直すと、また全然違う感想が生まれる。そういうところまで含めて雑誌って面白いと思われたらいいな、そしたら1500も2000もあるんじゃないかなと思います。
- カワルン
- 何度も読み返したくなる雑誌ってあるよね~
- クラシー
- 集めたい雑誌もね!
Supported By
展覧会場写真:澤木亮平
クラシー&カワルン イラストレーション: にしぼりみほこ