9月27日の中秋の名月、そして翌日のスーパームーン。
先月は、月に関する話題も多かったですね。いつもより、夜空を見上げる機会も多かったのではないでしょうか。
生活工房では、「この星に生きる」をテーマに活動しているセセンシトカさんと共同で、「時をときはなつ」と題した企画をおこなっています。
カレンダーや時計の中に押し込まれてしまっている「時」の概念をときはなち、自分やほかの命の中に流れる時間、世界に流れる時間を見つめることを目的に、ワークショップと上映会を行っていく、というものです。
そのvol.4として、時のフィールドワークショップ「月をうつす」と、時のドキュメンタリー上映会「満月の夜に」を、9月26日に開催しました。(vol.1はこちら、vol.2はこちら、vol.3はこちら)
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時のフィールドワークショップ「月をうつす」
星空が見えなくなってしまった都会でも、月はお天気が良ければいつでも見ることができます。
地上に電気などの光がない時代には、月の存在は夜を照らしてくれる光源であり、そして時計でもあり、カレンダーでもありました。
月の満ち欠けや月の出・入りを知れば、今日がいつなのか、時間は何時頃なのか、さらには方角を知ることもできます。
今回のワークショップはまず、月と地球・太陽の関係をおさらいすることから始まりました。
満月と新月の日には、月と太陽と地球が一直線に並ぶため、その引力は最大になり、海も大潮となります。
そのような月の引力は生きものたちのリズムにも影響を及ぼします。
よく知られている満月の日のサンゴの産卵以外にも、アカテガニやクサフグなど、大潮の日に産卵する海の生きもの。また、明るい満月の頃にヒナが孵化するよう、タイミングを見計らって半月の頃に産卵するヨーロッパヨタカなど、月のサイクルにあわせて行動しているさまざまな生きものを紹介しました。
そして、月はもちろん、人間の心にも、大きな影響を及ぼしています。一般的な「お月見」は、中国の中秋節が平安時代に伝わり、それがもともとあった里芋(かつての主食)の収穫祭と結びついたものとされています。そなえるお団子は、もともとは里芋であったため、旧暦の8月15日を「芋名月」とも呼んでいました。
日本では満月の十五夜だけでなく、十三夜や、二十六夜など、さまざまな位相の月を待ち、愛でる文化がありました。
今回のワークショップでは、月をうつす盃と、月のかたちのようなお皿を作ります。「月を待つ」、お月見セットを作るのです。
盃になるのは、世田谷区立次大夫堀公園民家園さんの真竹です(次大夫堀公園民家園さんや岡本公園民家園さんでも、毎年お月見の行事や飾りつけを行っています)。
盃サイズにカットし、持ち手となる部分をやすりでていねいに削って、形にしていきます。慣れた手つきでノコギリを使う80代の女性、初めてノコギリを手にする5歳の男の子も頑張りました。やすりのかけ方や、カットの仕方で、さまざまな盃ができあがりました。
お月見団子をのせるお皿は、大きくまるい、本当に月のようなモウソウチク。モウソウチクは、(一財)世田谷トラストまちづくりさんの竹山市民緑地からいただいてまいりました。こちらは、トラストまちづくりさんと竹山市民緑地ボランティアさんが一緒に管理をされている竹林で、さわさわと風に揺れる竹が美しい場所です。
世田谷の竹を使った、盃とお皿が完成しました。お皿にお団子をのせ、お茶をいただます。
ティーブレイクをしながら、ご参加の皆さんの、印象的な月や、月の思い出について、お話を伺っていきました。
○「お茶をたてるとき、泡立ちを少なくし、湖水のように見立てて、そこに月が映ることを想像しながらいただいたことがある」
○「四国に行くフェリーで、満月に向かっていくように船が進んでいったこと」
○「戸隠の山で月を眺めるのが好き。銀色のように見える」
○「自分のほうに向かってほほ笑んだ人がいて、最初なんだかわからなかったけど、自分の後ろにあった大きな月を指さした。一緒に笑いあった」
○「自分の中に残っている野生の部分が月とつながっている気がする」
○「高尾山の山頂で野宿したことがあった、月がまぶしくて眠れないほどだった」
などなど。あるかたの、「小さいころ、月がいつまでも追ってくる!と思った」とのお話には、誰もが「そうそう!」という表情でした。
あらためて、月は誰の上にも浮かんでいて、いつの時代にも浮かんでいて、どこか懐かしいような存在なのではないかと感じたワークショップとなりました。
中秋の名月は、盃に映せたでしょうか?
もし映せなかった方も、満月は毎月やってきますし、「二十六夜待ち」のように、細い月の出を明け方まで待ってみるのもいいですね。
時のドキュメンタリー上映会「満月の夜に」
ワークショップ後は、月をテーマにした上映会を行いました。
アジアの満月の夜に行われるお祭りと、月のサイクルに影響を受ける動物たちの映像です。
・「マンダレーの灯明祭」(国立民族学博物館/14分/1980年 ミャンマー)
古都マンダレーにおける仏教信仰と、10月の満月の夜のおごそかな灯明祭をえがく。
・「チワン族の中秋節」(国立民族学博物館/19分/2004年 中国)
月餅を食べ、ザボンを供える中秋節。町一番の大通りは、家族連れで賑わう。
・「下園の十五夜」(民族文化映像研究所/37分/1980年 鹿児島県枕崎市下園)
十五夜の前日、7歳から14歳の男子は山へ入り、笠を被った神となって降りてくる。満月のもと、南九州に特徴的な綱引きと相撲が執り行われる。
・「海・青き大自然 THE BLUE PLANET 7 潮流のドラマ」(BBC/50分/2003年)*日本語吹き替え版
月と太陽と地球が一直線に並ぶ満月と新月の日の前後、海は大潮となる。天体の力がもたらす「潮流のリズム」は、海の生態系の営みをつかさどる。
皆様のご感想を抜粋します。
○「正に今迎えようとしている中秋の名月を遠くの人々、および動物たちがどのようにすごしているかをまとめた映像を見られた。BBCの番組は地球の多種多様な生物の営みに直接月が関わっていることが良く分かった。栄養を遠くへ運ぶ役割があったんだ!と気づいた。」
○「〈自然の運行と私たちの心身の関わり〉という、今の時代に見直すべきテーマを取り上げており、現代に伝承された「お月見」の行事の意味を掘り下げている点が、大変に良いと思いました。「下園の十五夜」は本で読み、関心を持っていましたが、映像を拝見でき貴重な機会でした。稲作以前の文化を考え、日本の文化がどこから来てどう変化していったかを考えさせられました。
○「日本の良き風習、伝統はどこへ・・・と思いましたが、現代人にとって時代遅れとか、これが日本かと別世界を感じることでしょう。人類は自然の中で生かされている事、自然の大切さを肌身で分かってほしいと願う。改めて人と自然の絆を感じる場でした。(月)潮をうまく利用して本能を生かして生命をつなぐ素晴らしさ、動物のように生きられたらいいなと思いました。」
○「月はよく見上げるのですが、今後は意味合いを込めて見上げることが出来るので、楽しみです。」
上映会が終わって外に出ると、ぽっかりと大きな月が浮かんでいました。