Report

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観る、やってみる、問いつづける。
映像のフィールドワーク展

20世紀の映像百科事典をひらく

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Introduction

本展の企画制作者とともに会期も終盤の会場を巡りながら、
展示の背景や、ここで起こったことについて振り返ってもらいました。

下中菜穂
丹羽朋子
竹田由美
下中菜穂しもなか・なぼ

造形作家。もんきり研究家。昭和のくらし博物館理事、(公財)下中記念財団映像活用委員会委員。一番好きなECフィルムはオセアニア・ギルバート諸島の「凧づくり」。

丹羽朋子にわ・ともこ

文化人類学者。国際ファッション専門職大学講師、NPO法人FENICS理事。一番好きなECフィルムは「毛織の頭巾付き外套“ブルヌス”の洗濯」

竹田由美たけだ・ゆみ

生活工房学芸員。一番好きなECフィルムは「ムミエの石刃研ぎ」。


映像のフィールドワーク展
20世紀の映像百科事典をひらく

会期: 2019年3月16日(土)~4月7日(日)
会場: ワークショップルームAB/生活工房ギャラリー
https://www.setagaya-ldc.net/program/441/

人類や生物の営みが記録された貴重な映像が、生活工房でたくさん観られるらしいよ!

「映像を観る」って、映画館のようなこと?フィールドワークってなんだろう?さっそく行ってみよう!

「映像のフィールドワーク」とは?

「映像のフィールドワーク展 ―20世紀の映像百科事典をひらく」にようこそ。映像をたくさん観られるということで、シネコンのような場所かと思った方もいるでしょうか。今回は会場全体を「ECフィルム研究所」として構成した展覧会になっているんですが、まずは、「ECフィルム」や「20世紀の映像百科事典」というものが何かという説明から始めたいと思います。

これは1952年にドイツの国立科学映画研究所で始まったプロジェクトで、ドイツ語で「映像の百科事典」を意味する「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(Encyclopedia Cinematographica)」略して「ECフィルム」と呼ばれています。世界中の知の記録を、映像という手法で集積することをめざし、数多くの研究者・カメラマンが世界各地に赴き、民族学・生物学・科学技術の映像を3,000タイトル以上制作しました。

例えば民俗学映像では、世界各地の人たちが何かを作って食べていたり、家を建てていたり、服を作っていたりと、ありとあらゆる暮らしのコンテンツが収録されています。この3,000本以上もある映像は公益財団法人下中記念財団が所有・管理しているのですが、16mmフィルムというメディアのため、これまで一般の方が観る機会はあまりありませんでした。ここにいらっしゃる下中さん・丹羽さんを中心として2012年に「EC活用プロジェクト」が発足し、さまざまな上映会や映像を使ったワークショップなどを開催して、少しずつコンテンツのデジタル化を進めてきましたが、それでも3,000タイトルのうち600本ぐらいしかデジタル化が追いつかず、全貌も未解明のままでした。

そこで生活工房という地域に広く開かれた場所で、これらの映像の世界を体感してもらいながら、記録された映像の意味や、そもそも映像を記録することの意味をも探ろうと、この展覧会がつくられました。展覧会のチラシにも「観る、やってみる、問いつづける。」というキャッチコピーを謳っています。

参加者とともにタイムカプセルの蓋を一緒に開けてみたい

16mmフィルムを観られる時代には、映像が問題なく活用されていました。いろいろな人が観ることで分野を越えて研究が進んだり、そこから人が育ったりという時期がありましたが、16mmフィルムというメディアが役割を終えてしまい、今は長い間仕舞われていたタイムカプセルを開けるように手探りをしている状況です。そこで今回の展覧会もすでに分かっていることを紹介するのではなく、参加者とともにこのタイムカプセルの蓋を一緒に開けてみたいと思いました。

展覧会というのは、得てして、分かったことが展示され、それを拝見する、みたいになりがちです。私たちが心を砕いたのは、来てくれた方が興味を持ち能動的にこの場に関わることができて、展覧会が終わっても、継続してプロジェクトに参加するような気持ちで繋がるメンバーになって欲しい、ということでした。

「映像のフィールドワーク展」というタイトルは、来場者もこの会場を「フィールドワーク」するような気持ちで、「なんだ、これは!」と驚いたり、「これ、私もやったことがある!」「遠い世界の人もこれをやっていたんだ!」と気付きを得たりしてもらいたいとの思いを反映させています。

初日にはここに展示物と映像しかありませんでした。それが日々、子どもが触発されて手を動かしたものなども痕跡として残すことで、ここに来てくれた人の「行い」が展示に反映され、次第にこの場がフィールドらしくなってきました。そういったものが何もない、展覧会の初日に来た人からは、質問攻めだったんですよ。「これは何ですか?」「何をしているんですか?」とか。

ほとんどの映像がモノクロで音もないんですが、それが今の世の中では極めて珍しい映像体験です。今の映像は説明過剰で、常にテロップが出ているのに慣れきっている。「すぐに答えが欲しいと思っている自分に気が付いて、ちょっと愕然としました」と言った来場者もいました。検索すればすぐ答えが出るという世の中に暮らしていますが、疑問とか問いを自分の中で熟成するまで持っておく、そんな力が衰えているのではないでしょうか。この場ではあまり説明をしないで、問われれば一緒に対話をする、というスタンスを取りました。展示自体がさまざまな人の痕跡によって「出来上がった」今は、あまり初日のような質問攻めにあうことはなくなりました。

この場が今まで行ってきた上映会と大きく違うのは、時間と空間です。参加者それぞれが自分のペースで映像と向き合って、理解したり、理解できなくてしばし佇んだり…。この空間全体が、ECフィルムの研究所のようになっています。参加者全員が研究員なので、気がついたことは何でもメモや痕跡を残してください、と呼びかけをしてきました。やがてリピーターも次第に増え、ここで長時間過ごす人たちも増えてきたように思います。

クラシー
音がない映像も、何を話してるんだろうって考えて、アテレコするのも楽しいかも!
カワルン
ぼくはモノクロの映像に頭の中で色をつけてみてるよ~