占い師とは、相談されるという「第三者のプロ」である。
なあに、第三者が相手なのだから、相談する側だってなんでも言える。
「ここだけの話」と、聞きたいことをガンガン聞けるのがよいところだ。


受け取り方だけが、占われるものに問われている。
それだけが、たったひとつの不文律だ。



ぎい。重い鉄製のドアを開ける。
三軒茶屋・キャロットタワー「生活工房」ワークショップルーム。
ぼわんと熱気を浴びた瞬間、デイトレーダーの部屋みたいだ、と感じた。
暗い部屋に満ちる緊張感。胃にコールタールが落ちるようだ。
部屋の前方には、おびただしい数のホワイトボードが扇状に立ち並んでいる。
ロールスクリーンには、壁を挟んで隣接した密室のキッチンスタジオからの中継映像。



「え~~、じゃあ、ま、そういうことで、今回は占いですので……」
キタガワタカヨシの、おだやかすぎる挨拶が、場のテンションと対照的だ。
そそ、と占い師・大塚ひさよ氏が前に出る。


こちらの緊張をするりと明るくほどこうとするような、柔和な微笑。
ほろほろと打ち明け話をしたくなるような占い師の姿にほっとしたのか、
ルームに集ったゼミ生たちも穏やかな微笑みを送り返すようだった。


そう。これから彼らは、一人ずつ、占いを受けていく。
彼らはその直前の表情として、リラックスと程よい緊張感を、両方わたしに見せてくれた。
……緊張。窺い。戸惑い。怯え。喜び。好奇心。そしてまた緊張……。
脂汗とともにカメラを構え、口の中でだけつぶやいた。
Good feeling. 人間くさい、ここにある顔たちが好きだ。



大塚氏が中継カメラのセッティングされた「占い部屋」、密室のキッチンスタジオに座す。
そこにゼミ生一人ずつが呼ばれてゆき、中継カメラの直視のもと、占われていく。



中継映像を受け取るワークショップルームでは、キタガワタカヨシがペンを持ち、
ホワイトボードにさらさらと、占い結果を絵および簡潔な文字で表していく。



さながらプロファイリング・データの現出場面である。
ありていに言って、異様な光景――。
胃の奥がゆら、と燃えた。同時にこれまでとない激痛。くつくつと笑いがこみ上げる。
グッド・グッド・フィーリン!


そのとき。


直感したから、ファインダーから目を外した。
本イベントで「みっける」べきことは――。


その1「美術の道にあるゼミ生を占うこと」
その2「占い結果をライブドローイングすること」
その3「ゼミ生がすべて『自分のこと』と自覚して現場に立ち会うこと」


そう。そのみっつの目的を《混ぜあわせること》。


混ぜあわせた結果そのものを、活きた美術としてプロデュースするのが、
みっける探偵の依頼人=キタガワタカヨシその人なのではないだろうか?



撮影 金子千裕


ゾクリとしたから思わず見上げた。
ペンを握り、猛烈な筆致でホワイトボード群をびっしり埋め尽くしていく人物の、
のんきすぎる挨拶の声が耳の奥によみがえる。
「え~~、じゃあ、ま、そういうことで、今回は占いですので……」



撮影 金子千裕


はっ、と目が合った気がした。
気がしただけだろう。彼はホワイトボードと映像だけを見つめている。
なのにわたしは間隙、自分のなかを占われた気がしたのだ。


スピリチュアルな個人の秘め事など、占い師にも、キタガワタカヨシにも、
明かしたことなど、そしてこれからも……。永遠に、無いはずなのに。



To be continued……


※ このお話は実話を基にしたフィクションです。


【著者略歴】
森田幸江(もりたゆきえ)
アメリカ大使館ライター、学芸単行本、カルチャー系雑誌編集、電子書籍シリーズ編集などに従事するフリーランス著述者/編集者。
コミック原作、小説、取材構成などの打席にも立つ。
1979年生まれ、日本女子大学文学部卒、右投げ右打ち、贔屓球団は広島東洋カープ(年間40試合を現地観戦)。


「みっける365日」展──アーティストと探す「人生の1%」
http://www.setagaya-ldc.net/program/393/