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「アメリカン・トイズ」展レポート

玩具を通して見る、激動の20世紀

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当初はオリンピックイヤーである2020年に開催予定だった「アメリカン・トイズ」展。子どもの造形教育に取り組んできた春日明夫氏のコレクションから、フィッシャー・プライス トイズ(現・フィッシャープライス®️)の製品を中心に、1920年代から80年代にかけてのアメリカの玩具約150点を紹介する展覧会で、コロナ禍による延期を経て2021年9月に実現しました。
時代の写し鏡ともいえる玩具を通して、当時のアメリカの暮らしや文化、ひいては玩具の本来持つ意味について考えた、この展覧会の様子をレポートします。

春日明夫コレクション
会期:
2021年9月7日(火)~12月19日(日)
時間:
9:00~21:00 祝日を除く月曜休み ※9月30日まで9:00~20:00に変更
会場:
生活工房ギャラリー

玩具って楽しいし
可愛いよね!

時代をたどると
それだけじゃないことが
みえてくるのかも。

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アメリカとフィッシャー・プライス トイズ

ギャラリーに入って正面のショーケースに収められているのは、フィッシャー・プライス トイズと同時代のアメリカの玩具です。特に木製の玩具が主流だった頃の雰囲気が良く分かります。

1つ目のショーケース

たとえば下の写真は1920年代に販売された押しバネ玩具。中央の突起物を指で押すと、台座の中に仕掛けられた金属の板バネが押され、二人のボクサーの体が上下します。その振動でL字型の両腕が前後に振られて動き、まるで二人がボクシングをしているかのように見えます。

アメリカの1920年代は「禁酒法」時代で、酒の販売や飲酒が禁止されていました。また「見世物」や「賭け事」としての興行ボクシングも禁止されていましたが、闘いの場が地下に潜って人気が逆に高まったそうです。そんな時代背景が反映されているといえるかもしれませんね。

写真中央:ボクシング(拳闘)1920年代

アメリカは独立宣言を起点にすると創立250年の国家。人口、面積ともに大国ですが、世界の中でも新しく開拓された比較的若い国といえます。国内外での戦争、ゴールドラッシュ、奴隷解放宣言といった歴史的な出来事、禁酒法と狂騒の20年代を経て、1929年に世界恐慌の引き金といわれる株価の大暴落が起こります。フィッシャー・プライス トイズが設立されたのはそれから間もない1930年のことで、これは二つの大戦の狭間でもあります。

フィッシャー・プライス トイズはハーマン・フィッシャー、アービング・プライス、ヘレン・シェリーの3人によってニューヨーク州イーストオーロラに設立されました。社名は創業者2人の名前からつけられています。

1969年に創業者のハーマン・フィッシャーが退任すると、大手食品会社に買収されますが、その後再び独立して株式会社化したのち、1993年には全米最大の玩具メーカーであるマテル社の子会社となりました。そして現在も、乳幼児玩具を中心にその名が継承されています。

John J. Murray and Bruce R. Fox著『Fisher-Price, 1931-1963: A Historical, Rarity, Value Guide』
Books Americana (左:1991, 2nd Edition 右:2002, 3rd Edition)
クラシー
昔から仕掛けを工夫して楽しんでいたんだねえ
カワルン
素朴な素材だからこそ愛着がわくのかも