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レポート | 「きいろいカラス」展アーティストトーク 椎木彩子×村上慧「お家で話す」レポート | 世田谷文化生活情報センター 生活工房

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「きいろいカラス」展アーティストトーク 椎木彩子×村上慧「お家で話す」レポート

「今」の範囲、それぞれの時間

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それぞれの時間を生きる

椎木彩子

会場では高齢の方が話しかけてくれることが多くて、そんな方から伺う100年ってちょっと違うんだなって。それこそ「時間」の軸が、生きてる年数が長いほど長くなるというか、想像ではなくて実体験になっているんだ、というところを聞いたときに、不思議と今に縛られない気持ちになれたんですね。

村上慧

うんうん、なるほど。

椎木彩子

いろんな人の人生の話を聞くことができて、ずうっと続いていく中のひとときのポイントという感じが少し和らいだんですよ。「きいろいカラス」も、今の話として書かせてもらったけど、たぶん、本当に意味をなしてくるのはもっと先なのかなっていう気もしています。

実をいうと、今日の最後村上さんに読んでもらおうと思って、私も手紙書いてみたんです。みんなに書かせておいて自分が書いていなかったので。

村上慧

では、読みますね。

トーク風景

100年後に生きる人へ。
この手紙は2022年3月4日に書きました。
日々不安なニュースが続いていて、正直なところ少しまいっています。
なので、自分のことではなくて、この「きいろいカラス」展で出会った80代の男性から受け取った言葉を書かせていただきます。

80年も生きていると、100年という年月は自分にとっては実感があります。
その中で無くなっていったもの、残ったものがありました。
人の手でつくったものはきっと残りやすいと思います。

どこからどこまでが “人の手” なのかは断定できないけれど、この話を聞いて、自分の中にある100年がぐっと身近な単位になりました。
時間の軸は縦じゃなくて、輪のようにつながっているのかな。

椎木彩子

ありがとうございます。そう、こんな風に感じられたんです。絵本の原画の中に手がいっぱい出てくるからか、この方は「手が手が」ってずっと言ってて、なんの話だろうって思って聞いたら、「いや、100年ってさ」ってこの話をしてくれたんです。私はもうすぐ40歳が近づいてきているんですけど、40年でも本当に変わってきているなって感じます。

手の原画
椎木彩子

「今」が強い時こそ未来のことや過去のことを大切にすることでいいバランスを取れる気がするんですよね。村上さんが昔の建物を見に行ったりしてると聞いたことによっても、自分の中では「今」が和らいだ。

村上慧

なるほど。

椎木彩子

戦争の話も強すぎるから、また今が強くなってるって気もするんですけど。コロナ禍になって企画を作り直した頃に、作家の高橋源一郎さんが、戦争の文学は多いけど感染症の文学はそこまで多くない、戦争は本当に強くて残るから、感染症は案外みんな忘れる、って話をしてて。だから『ペスト』とか、こういう時に読まれる、と。それもあって「今ばなし」をつくろうとしてたんですけど、まさかこのタイミングで戦争があるとはって正直思って、余計にその言葉を実感してしまいました、強いなって。コロナだって強いんですけど。

村上慧

吹っ飛んじゃったもんね。

椎木彩子

そうそう。そういうことをリアルタイムで体験してるからこそ、昔のこと、未来のこと、想像する、調べたりする、足を運ぶっていうことはすごい大事だろうなっていう気がしますね。

アーティストトークの様子
村上慧

昔、ライブハウスを経営してた知人が言ってたんですけど、「今を生きろ」みたいなことって、すごく美談、善きこととして音楽でも歌われるけど、経営してると来月のこととかをずっと考えてるみたいなんですよね。ブッキング、予定、予約の期限、お金とか、先のことをすごく考えなきゃいけなくて。ただ、本人もバンドやってるんですけど、その切実な「予定を立てて行動しよう」みたいなことは歌にはできないな、って。

椎木彩子

そうですね(笑)。

村上慧

音楽に携わっている当人が、全然「今」を生きてないって話をしてたんです。でもそれって、「今」の範囲をちょっと広げれば解決する問題っていう気がするんですよね。

未来とか過去のことを考えるから不安になる訳ですけど、たとえば瞑想みたいに、本当に「今」にフォーカスをぐっと絞っていって、ここに僕がいて、椎木さんがここにいて、世界はこれで以上、みたいな状態になれば基本的に不安とかは消えていく。そういうのも大事だと思うんですけど、一方でそれこそ100年、前後50年くらいの幅で「今」を考えることによる不安の解消もあるんじゃないかってなんとなく思ってて。

椎木彩子

うん、そうですね。

村上慧

それで歴史というか世界を何年区切りで見ていこうかって考えてみるのもいいのかなって、最近特に思いましたね。わかんないけど200年くらいで考えてみるとか、ある知り合いは600年とか言ってましたけど。

椎木彩子

へー600年かー。

村上慧

強まる同時性に対抗する意味でも、自分の固有の範囲みたいなものを持ちたいなと日々思っています。特にコロナ禍になってから。

椎木彩子

そうですね。なんか、人それぞれの時間の持ち方があると楽に生きられる気がするんですよね。こうしなきゃ、ああしなきゃって合図がすごく多くて、たとえばメールの既読とかも合図だなと思うんですけど、やっぱり自分なりの時の持ち方があるといいし、それも大切にしたいし、人と人とが一緒にいる時間の取り方、共有の仕方も、それぞれが心地良い方法があるはずだから、それを育んでいけると本当にいいですよね。

展示の様子
カワルン
自分なりの時を持つって素敵だね
クラシー
ここでふわふわ暮らしているぼくたち、結構得意だよね~