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「きいろいカラス」展アーティストトーク 椎木彩子×村上慧「お家で話す」レポート

「今」の範囲、それぞれの時間

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展覧会で目指したこと

村上慧

なんか椎木さんがつくる場所ってちょっとシェルターっぽいっていうか。たとえばこう、ニュースをスマホの画面とかで見て、直撃を受けるじゃないですか。ニュースに限らず生活の中でも、いろんな理不尽なことがあるじゃないですか。

で、「100年後に生きる人へ」っていう手紙を書いて、自分と同じように書いてる他の人の記録が残ってたりとか、ワークショップによってつくった、絵本の展覧会だったりとか、ゆるやかな、コミュニティよりももっとゆるい場所、島みたいな。それは出入りできるんだけど、椎木さんがバリアみたいなのを張って、さりげなく世界のもろもろの攻撃から守る場所になっているというか。うまく言葉が見つからないんですけどね。

椎木彩子

はい、でも言わんとしてくれてることはわかる(笑)。

村上慧

そういう場所をつくってるなあって思ってて。それがなんか心地がいいなあって。その、押し付けがましくない、参加してもしなくてもいい、でもなんとなくここに来る人と知り合いになってるようなないような、でもなんかに参加した感じがする、みたいな所。それはうまいなと思う。

椎木彩子

ありがとうございます。実をいうと、今回の展覧会をつくる上で目標としたのが「休憩所」なんですね。なんで休憩所にしたかったかっていうと、私もこの二年、もっと前からだったかもしれないけど、強いメッセージにちょっと疲れてるなっていう感覚があったんですね。なにか大変なことが起きた時って、強いメッセージが道標になるし、大切なことなんだけど、「強いメッセージ疲れ」みたいなのもあって。

私はもともと自分の話をしたいアーティストじゃなくて、人の話を聞きたいアーティストなので、なんかどうやったら人の話を楽しく聞けるかな、ってことを一番最初に考えてます。

村上慧

あー、なるほどね。

椎木彩子

面と向かって「あなたの話を聞かせてください」って言われると、えっ、ってなっちゃうと思うんですよ。なので、どう聞いたら楽しい話が聞けるかな、っていうことを軸に考えているかもしれないですね。それで、今回は休憩所なんですけど、自分もその休憩所でいただいた言葉に対して応えたい気持ちがすごくあるから、絵を描いたり、絵本をつくったり、こうやってトークイベントをさせてもらったりしてるので、そういう風に感じ取ってくれたことがすごく嬉しいです。

展示風景
椎木彩子

村上さんは発泡スチロールの家をつくって、その家で移住しながら生活して、日記を書いているアーティストで、移動しながら観察することで見えてくることを書いてらっしゃるんですが、その日記がすごく淡々としていて、淡々としているから積み重なるとすごい面白い。それは一つひとつが強いメッセージじゃなくって、重なっていくことでみえてくるものがあるというか、それこそが「今」っていう時間の単位を長くしてくれてるような感じですね。

時短っていう言葉がありますけど、その真逆を行きたいというか、積み重ねてできることの面白さって、もっと面白いって思っちゃうんですよ、簡単に短く早くできるよりも。そこを楽しんでいけるようになったら、「今」っていう時間が、もっと広くなるんじゃないかなって気がしていて、そういう意味で、すごいことをしようと思わずに、繰り返すってことをするのは豊かな生活ができるんじゃないかなと思います。

村上慧

ありがとうございます。椎木さんの会場は居心地がいいので、休憩所っていうのはとても腑に落ちました。

椎木彩子

ありがとうございます。居心地は大事ですよね、嬉しいです。

トーク風景
カワルン
「休憩所」っておもしろいね!
クラシー
ぼくは止まり木のような存在になりたいなあ~

Supported By

写真:前澤秀登(p.1~4会場風景)
   山本華(p.1~4アーティストトークの様子、p.1絵本)

クラシー&カワルン イラストレーション: にしぼりみほこ