外出の叶わない「イロさん」と「モモさん」が手紙で交流するさまを描いた、絵本『きいろいカラス』。
世田谷区芸術アワードを受賞した椎木彩子さんが、受賞年に開催したワークショップをもとに、さらに1年かけて創作した絵本です。
この絵本の世界を昔ばなしならぬ「今ばなし」として味わえるよう、原画、制作過程を示すラフスケッチやワークショップの様子、物語に登場する「イロさんの家」などで構成した展覧会を開催しました。
本展最終日、この展覧会ができるまでを振り返り、「今」についても語り合った、アーティストの村上慧さんとのトークの模様をお届けします。
- 会期:
- 2022年1月8日(土)~3月6日(日)
- 時間:
- 9:00~21:00 月曜休み(ただし1月10日は開館)
- 会場:
- 生活工房ギャラリー
- 会期:
- 3月6日(日)
- 時間:
- 18:30~19:30
- 会場:
- 生活工房ギャラリー
- 出演:
- 椎木彩子、 村上慧
People
イラストレーターの仕事に従事する他、日本各地、韓国などで個展を開催。 近年は人の言葉を採集する作品づくりを展開する。HBファイルコンペティション2017鈴木成一賞(大賞)、第6回世田谷区芸術アワード“飛翔” 生活デザイン部門受賞。主な展覧会に「窓辺の物語」(調布市/2020)など。
オフィシャルサイト
2011年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。2019年「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol.08/社会を解剖する」(高松市美術館/香川)などに参加し、2020年個展「村上慧 移住を生活する」(金沢21世紀美術館/石川)を開催。著書に『家をせおって歩く』(福音館書店)など。
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- カワルン
- 外に出られないなんて、ここ最近のぼくたちと重なるね
- クラシー
- ぼくは、ねぐらのキッチンにいることが多くなったよ~
01
展覧会までの経緯
今日は、この展覧会がつくられるまでの話だとか、村上さんのコロナ禍の話なんかも聞けたらと思っています。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。椎木さんが応募した世田谷区芸術アワードは2019年でしたよね? その後、2020年2月からのコロナ禍を予想できたはずがないので、当初のプランと違うと思うんですけど、どうやって最初のアイデアから今の生活が反映されたものになったのか気になります。
2019年秋にこの企画を出した時は、もっと賑やかな企画になるはずでした。2020年は東京でオリンピックがあるだろうと思っていたので、その裏側の、建物がどんどん変わって、好きなもの、好きな場所、好きな暮らしが変わっていくっていう大きな物語になりにくいものを、民話として世田谷区民と一緒につくるプロジェクトだったんです。なのでプランでは区内の場所を限定してつくるつもりでした。
そのみんなで集まってつくるお話を、最初は絵本じゃなくて紙芝居でつくろうとしていました。やっぱり民話って口承のものだから、テレビの先祖みたいな紙芝居がいいかなあと考えていたんです。でも知っての通り、2020年2月から日本でも状況が急変していって、そもそも集まることができなくなって。
口で伝えるっていうのもね。
そう、口承っていうのが一番難しい状況になりました。本当は3・4月からワークショップをやるはずが無理になってしまって、計画を全部変えなきゃいけないという状態で。それで1ヵ月後ろ倒しにして、「テレワークショップ」で行くしかないと。そんな時、生活工房の担当者と「今ばなし」にコロナは避けて通れないけど、「今」ってなんなんだろうねって話していて、出てきたキーワードが「スピード」だったんですよね。
スピード。
はい。情報スピードがあまりに早かったし、個人的にもなにかが起きた時に「検索魔」になっちゃってるなって思って。
うん、超分かりますよ。
コロナウイルスも分からないものとして検索して、情報はすぐにたくさん出てくるんだけど、本当のところは分からないし、同じようなことしか出てこなくても不安で調べてしまう、みたいな感じで。分からないことに対する耐性がなくなっている気がしていました。
コロナ禍が始まった頃、誰かと対話したい、会えない誰かと会いたいっていう気持ちが強まったけど、コミュニケーションツールとしてZoomなんかを使うと、また情報が増えていくっていう感覚があったので、ワークショップでは手紙という手段を使うことにしました。手紙だとどう情報が違うのかといわれると難しいんですが、見えすぎないからいいような気がして、それにちょっと賭けてみようっていうことになったんです。
そのワークショップが「いつか会う人へ」向けて好きなことを訊いているやつですよね。
はい。展覧会場には「きいろいカラスができるまで」という制作過程を紹介する机があって、その手紙が6通展示してあるんですけど、それからワークショップのやりとりが始まっているんです。手紙を5回くらい交わして、最後は結局Zoomで感想会をやろうっていうことになったんですけど、でもその時も、対面するのは本当に会う時にとっておこうって話になって、みんなに描いてもらったお面をつけるっていう謎の会をしました。
そうだったんだ。
でもその時に結構気をつけてたのが、コロナに直接触れるようなことはあえてしなかったんですね。非常時ってより日常が見えやすいから、逆に日常を見つめようっていうテーマでやらせてもらいました。 印象に残ったのが、スマホがネイティブだという20歳くらいの女の子が、手紙のやりとりをあんまりやったことがなかったと。
はいはい。
正確な言葉は覚えていないんですけど、ニュアンスとして「交流が休憩できるのがすごくいい」って言っていて。休憩できるし、忘れたりできるんだけど、忘れた頃に確かにやってくる、しかも手紙って「もの」だから、その「もの」による想像力も結構あるっていうところに発見があったっていう話をしてくれて。
なるほどね。
道具って本当に使いようだな、面白いなと思ったので、もう一つ意識したのがいろんなメディアを使ってみようっていうことでした。
メディア。
はい、手紙も使ったし、ラジオ放送風に宿題を出して、それに応えて書いてくれた手紙をリスナーからのお便りを読んでる風にしたり、ビデオレターなんかもやって、最後はZoom。いろんなメディアの特性みたいなのを楽しんで使ってみました。時代とともにあんまり使われなくなったメディアもありますけど、それぞれ残っているには理由があるなって思いました。特にラジオってすごい距離感だなって思えて。
そうですよね。むしろ存在感増してますよね。
- カワルン
- そういえば手紙はゆっくりと対話できるねえ
- クラシー
- メールもいいけど、久しぶりに手紙書いてみようかな!